Webサイトは、現代社会における企業の顔とも言える存在です。その制作を外部に委託する際には、業務委託契約書がプロジェクトの成功を左右する重要な鍵となります。これは単なる書類ではなく、発注者と受注者間の信頼関係を築き、円滑なコミュニケーションを促進するための基盤となるものです。
本記事では、Web制作における業務委託契約書の重要性、記載すべき項目、注意点などを詳しく解説していきます。
また書き方についてですが、結論から書いてしまうと私はこちらを購入しました。
Web業務委託契約のひな形11点セット(制作、保守、SNS運用代行)
契約書は素人があれこれググって調べるより、プロが作成したものを購入して使った方がいいと思います。
それでは、業務委託契約書について解説していきます。
(有料になっていたらすいません🙇♂️)
Web制作に必要な業務委託契約書とは?
業務委託契約書とは、個人や企業である発注者が受注者に対して、『Web制作業務を行って頂く代わりに報酬をお支払いします』といった約束事が記載された契約書のことです。
契約書の内容は、発注者と受注者の双方が安心して作業を進められるように、様々な内容が書かれています。
例えば、厚生労働省が公開しているサンプルは、こちらになります。
参考サイト:在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン|厚生労働省
今回、以下の内容を中心に解説してきたいと思います。
- 業務委託契約書の必要性
- 業務委託契約書の項目とチェックポイント
- 業務委託契約書の雛形(テンプレート)について
なぜWeb制作では業務委託契約書が必要なのか?
Web制作プロジェクトにおいて、業務委託契約書は単なる形式的な書類ではありません。それは、プロジェクトの成功を左右する重要な要素であり、発注者と受注者双方にとってリスクを最小限に抑え、円滑なコミュニケーションを促進するための基盤となります。
認識のズレによるトラブルを未然に防ぐ
Web制作は、デザイン、コーディング、コンテンツ作成など、多岐にわたる作業を含みます。これらの作業を進める中で、「言った」「言わない」の水掛け論に発展する可能性は常に存在します。例えば、
- 作業範囲: 発注者は「当然含まれると思っていた機能」が、受注者にとっては「追加費用が必要な作業」だった
- 納品物の品質: 発注者は「プロの仕事」を期待していたが、受注者にとっては「十分なクオリティ」だった
- 修正対応: 発注者は「何度でも修正可能」と思っていたが、受注者にとっては「契約書に記載された回数まで」だった
このような認識のズレは後々のトラブルに発展し、プロジェクトの遅延や予算超過、さらには法的紛争にまで発展する可能性があります。業務委託契約書は、作業範囲、納品物の品質基準、修正対応などの詳細を明確に定めることで、このような認識のズレを防ぎ、双方が安心してプロジェクトを進めることができるようにします。
予期せぬトラブルへの対応策を明確にする
Web制作プロジェクトでは、
- 納期の遅延: 受注者の都合や予期せぬ事態により、納期が遅れる
- 成果物の品質問題: 納品された成果物が、契約書で定めた品質基準を満たしていない
- 追加費用の発生: 契約書に記載されていない作業が発生し、追加費用が必要になる
- プロジェクトの中止: 発注者または受注者の都合により、プロジェクトが途中で中止になる
といった予期せぬトラブルが発生する可能性があります。これらのトラブルが発生した場合、どのように対応するのか、誰が責任を負うのか、金銭的な補償はどうなるのかなど、事前に明確にしておく必要があります。業務委託契約書は、これらのトラブルへの対応策を明確に定めることで、問題発生時の混乱を最小限に抑え、迅速かつ適切な対応を可能にします。
著作権や知的財産権に関するトラブル
Web制作では、デザイン、画像、ソースコードなど、様々な知的財産が生み出されます。これらの権利関係が明確でない場合、
- 著作権侵害: 受注者が、発注者の許可なく、制作したWebサイトのデザインや画像を他のプロジェクトで使用してしまう。
- ソースコードの不正利用: 受注者が、発注者の許可なく、制作したソースコードを他のプロジェクトで流用したり、販売してしまう。
- 知的財産権の帰属: どちらが知的財産権を保有するのかが明確でないため、後々トラブルに発展する。
といったトラブルが発生する可能性があります。業務委託契約書では、著作権や知的財産権の帰属、利用許諾範囲などを明確に定めることでこれらのトラブルを未然に防ぎ、双方が安心してプロジェクトに取り組めるようにします。
納品後の修正やサポートに関するトラブル
Webサイトは納品後も、コンテンツの更新や機能の追加、デザインの変更など、様々な修正やサポートが必要になる場合があります。しかし、これらの対応範囲や費用負担について事前に明確な合意がないと、トラブルに発展することがあります。例えば、
- 軽微な修正: 発注者は「軽微な修正だから無料対応」と考えているが、受注者にとっては「追加費用が発生する作業」だった
- 対応範囲: 発注者は「納品後も無制限にサポート」を期待しているが、受注者にとっては「契約期間内の対応のみ」だった
- 対応時間: 発注者は「迅速な対応」を期待しているが、受注者にとっては「営業時間内の対応」だった
このような認識のズレは後々のトラブルに発展し、双方の信頼関係を損なう可能性があります。業務委託契約書には、納品後の修正やサポートに関する事項を具体的に記載し、トラブルを未然に防ぐことが重要です。具体的には、
- 修正対応範囲: どのような修正をどこまで無償で行うのか、有償となる場合は費用負担をどうするのかを明確に定める
- サポート期間: 納品後、どのくらいの期間サポートを提供するのかを明確に定める
- 対応時間: 問い合わせへの対応時間や緊急時の対応などを明確に定める
これらの事項を事前に明確にすることで、納品後のトラブルを回避し、双方にとって安心できる関係を築くことができます。
支払いに関するトラブルを回避する
Web制作プロジェクトでは、金銭の授受が発生するため、支払いに関するトラブルも起こり得ます。例えば、
- 支払いの遅延: 発注者が支払期日を過ぎても報酬を支払わない
- 成果物への不満: 発注者が成果物に不満を持ち、支払いを拒否する
- 追加費用の未払い: 追加作業が発生したが、発注者が支払いを拒否する
これらのトラブルは受注者にとって大きな負担となり、プロジェクトの進行を妨げるだけでなく、信頼関係の崩壊にもつながりかねません。業務委託契約書は、報酬額、支払い時期、支払い方法、追加費用の支払い条件などを明確に定めることで、支払いに関するトラブルを回避し、双方が安心して取引できる環境を構築します。
法的紛争のリスクを軽減する
Web制作プロジェクトでは、
- 知的財産権の帰属: 制作されたWebサイトのデザインやソースコードなどの知的財産権が誰に帰属するのか
- 秘密保持義務違反: 受注者が業務を通じて知り得た発注者の企業秘密などを漏洩した場合の責任
- 契約違反: 発注者または受注者が契約内容に違反した場合の責任
といった、法的紛争に発展する可能性のある問題も存在します。これらの問題を放置すると、企業の信用を失墜させたり、多額の損害賠償を請求される可能性もあります。
業務委託契約書はこれらの法的リスクを事前に洗い出し、責任の所在や対応策を明確にすることで法的紛争のリスクを軽減し、双方が安心してプロジェクトに取り組める環境を整備します。
Web制作で業務委託契約書を交わさないリスク
Web制作は業務委託契約書を交わさなくても作業は出来ますが、その場合のリスクは以下のようなものが考えられます。
- 制作費が支払われない(受注者側のリスク)
- 制作途中で放棄される(発注者側のリスク)
- 修正が無限に発生(受注者側のリスク)
- 追加料金・追加作業が発生(発注者・受注者双方のリスク)
最初の2つに関しては、まともな人であれば問題にならない場合が多いですが、修正などは回数を指定しないと無限と思われるくらい来る場合があります。
作業者によるミスが原因なら仕方ありませんが、デザインの修正によるコーディングのやり直しなど、作業者が原因ではない修正に関しては回数を指定しないといつまでも終わらない可能性があります。
追加作業に関しても、次の項目で解説する『作業範囲』をしっかりと明記しておかないと、
となる可能性があります。
つまり業務委託契約書というのは大きく分けると2つの役割があります。
- クライアントに安心して貰うため
- 自分の身を守るため
クライアントに安心して貰うためとは?
今まで制作会社の方に何度かお話しを伺った事がありますが、
・納期が過ぎても納品されない
・制作途中で連絡が取れなくなってしまった
という話を何度も聞いた事があります。
特に初めて依頼する相手、なおかつフリーランスだと不安に感じる方も多いかと思います。
そこで制作者から契約書を用意すれば、それだけで安心感を与えられます。
もちろんクライアント側が用意していて、こちらは内容をよく確認してサインするだけという事もあります。
また契約書がないと認識の齟齬が発生して、言った言わないの論争になる可能性もあります。
自分の身を守るためとは?
契約書がないとどういう事が起こる可能性があるかと言うと、
契約書がないと・・・
・修正が何度も来て終わらない
・支払い期日になっても入金されない
・デザインが丸ごと変わったけど追加費用を貰えない
・損害賠償になった時の損害が甚大になる可能性も
など、一言で言えば認識の齟齬、すれ違いをなくす為に必要になります。
例えば契約書に以下の事を書いていたとします。
- 修正は2回まで
- 支払いは納品月の翌月15日まで
- 追加費用は別途発生
- 損害賠償については制作費用を上限とする
など、最初に危惧していたことはこれらを書いておけば防ぐことが可能です。
実際身近でかなり無茶苦茶言われてる人を見た事があるので、そう言った常識が通用しないクライアントに当たってしまった時に威力を発揮すると思います。
また制作実績として自身のポートフォリオなどに掲載していいかどうかも、必要があれば契約書に書いておいてもいいかと思います。
Web制作の業務委託契約書に盛り込むべき項目
業務委託契約書は、Web制作プロジェクトにおける羅針盤のような存在です。各項目を詳細に定義し、双方の合意を明確にすることで、プロジェクトの成功を大きく後押しします。以下に、主要な項目とその詳細な説明を、より具体例や法的側面を交えながら解説します。
契約の目的
詳細な業務内容の定義
- 良い例: 「レスポンシブデザインに対応したコーポレートサイトの新規制作(WordPress CMS構築を含む)」
- 悪い例: 「Webサイト制作」
- 解説: 漠然とした表現は避け、具体的な技術やシステム、Webサイトの種類などを明記することで、認識のズレを防ぎます。
対象範囲の明確化
- 良い例: 「トップページ、会社概要ページ、サービス紹介ページ(3ページ)、お問い合わせフォームのデザイン・コーディング、およびコンテンツ作成」
- 悪い例: 「Webサイトのデザインとコーディング」
- 解説: ページ数や具体的な作業内容を明記することで、どこまでが委託範囲なのかを明確にします。
委託業務の範囲
作業内容の詳細なリスト化
- 良い例
・ワイヤーフレーム作成
・デザインカンプ作成(psd形式)
・HTML / CSS / JavaScriptコーディング
・WordPressテーマカスタマイズ
・コンテンツ入力(発注者から提供された原稿に基づく)
・SEO内部対策(metaタグ設定、見出しタグ最適化など)
・クロスブラウザテスト(Chrome、Firefox、Safari、Edgeの最新バージョン)
・サーバーへのアップロード - 悪い例: 「Webサイト制作に必要な全ての作業」
- 解説: 網羅的に作業内容をリスト化することで、後から「これは含まれていなかった」というトラブルを防止します。
各作業の納品物の定義
- 良い例
・ワイヤーフレーム: PDFファイル
・デザインカンプ: psdファイル(レイヤー構造を保持)
・コーディング: HTML / CSS / JavaScriptファイル、画像ファイル
・WordPressテーマ: カスタマイズ済みテーマファイル一式 - 悪い例: 「各作業の成果物」
- 解説: 具体的なファイル形式や納品方法を明記することで、成果物の品質や受け渡し方法に関する認識のズレを防ぎます。
修正対応範囲の明確化
- 良い例
・デザイン修正: 2回まで
・コーディング修正: 軽微な修正3回まで、大幅な修正は別途見積もり
・修正対応期間: 納品後1ヶ月以内 - 悪い例: 「納得いくまで修正対応」
- 解説: 曖昧な表現は避け、具体的な回数や期間を定めることで、無制限の修正要求を防ぎます。
さらに、具体例で解説します。
コーダーの場合はコーディングが作業範囲になりますが、そのサイトがWordPressなどCMSの場合は、コーディング後のWordPress化も作業範囲かどうかをしっかりと確認する必要があります。
実際に作業開始前に『こちらの作業範囲は静的コーディングのみ(WordPressは対象外)』というやり取りがあったにも関わらず、クライアントは『WordPress化もやってくれる』と思っていたことがあります。
また、酷いときには『コーディングとWordPressのみ』という話だったのに『デザインもやって下さい、追加費用は出しません、出来ないなら返金して下さい、返金しないなら訴えます』という無茶苦茶なクライアントもいました。
こういうクライアントは実際にいるので、こういったことを防ぐためにも作業範囲はしっかりと明記しておきましょう。
他にも以下のような項目を『ついでに』という感じで依頼されることがあるので注意しましょう。
- サイトマップの作成
- サーバーやドメインの契約
- サーチコンソールやGoogleアナリティクスの設定
納期
全体の納期と各工程の納期
- 良い例
・契約締結日: 2024年10月1日
・ワイヤーフレーム提出: 2024年10月15日
・デザインカンプ提出: 2024年10月30日
・コーディング完了: 2024年11月20日
・全体納期:2024年11月30日 - 悪い例: 「できるだけ早く」
- 解説: 具体的な日付を明記し、各工程の依存関係も考慮した現実的なスケジュールを設定します。
遅延時のペナルティ
- 良い例: 「遅延1日あたり報酬総額の1%を違約金として発注者に支払う。ただし、発注者側の責に帰すべき事由による遅延の場合は、ペナルティは適用されない。」
- 悪い例: 「遅延した場合はしかるべき対応をする」
- 解説: ペナルティの内容を具体的に定めることで、納期遵守への意識を高めます。ただし、免責事項も忘れずに記載します。
報酬
報酬総額と支払い条件
- 良い例
・報酬総額: 100万円(税込)
◯内訳
・着手金: 30万円(契約締結時)
・中間金: 30万円(デザインカンプ承認時)
・残金: 40万円(納品・検収完了時)
・支払い方法: 銀行振込
・支払期日: 請求書受領後14日以内 - 悪い例: 「報酬は協議の上決定する」
- 解説: 報酬総額だけでなく、内訳や支払い時期、支払い方法も明確に記載します。税込みか税別かも明記します。
追加費用発生条件
- 良い例
・発注者からの大幅な仕様変更(当初の仕様から20%以上の変更)があった場合は、別途見積もりを行い、追加費用を請求する。
・受注者の責に帰さない事由(例: 自然災害、法改正)により、想定外の作業量が増加した場合は、協議の上、追加費用を請求する。 - 悪い例: 「追加費用が発生する可能性がある」
- 解説: どのような場合に追加費用が発生するのかを具体的に定めることで、後々の金銭トラブルを防止します。
これは言うまでもありませんが、非常に重要な項目になります。やはり受注者側で一番の不安が、金銭トラブルだと思います。
特に、以下についてはちゃんと確認しておかないと、トラブルの原因になります。
- 税込価格か、税別価格か
- 追加作業が発生した場合の追加費用
- 着手金・全額事前支払い・納品後支払い
幸い私は今まで未払いで逃げられた経験はありませんが、先ほど作業範囲で書いたようにとんでもないクライアントがいるのは確かなので、この辺もしっかりと確認しておきましょう。
知的財産権の帰属
著作権と所有権
- 良い例
・納品物の著作権は、納品と同時に発注者に譲渡される。
・ソースコードの所有権は、発注者に帰属する。 - 悪い例: 「知的財産権については別途協議する」
- 解説: 著作権法などを理解した上で、著作権と所有権の帰属を明確に定めます。特に、ソースコードの所有権は、Webサイトの今後の運用・保守に大きく関わるため、注意が必要です。
知的財産権侵害時の対応
- 良い例
・受注者が第三者の知的財産権を侵害した場合、受注者は自己の費用と責任において、侵害状態を除去し、発注者に生じた損害を賠償する。
・発注者が提供した素材が第三者の知的財産権を侵害していた場合、発注者は自己の費用と責任において、侵害状態を除去し、受注者に生じた損害を賠償する。 - 悪い例: 「知的財産権侵害があった場合は、協議の上解決する」
- 解説: 責任の所在や対応方法を具体的に定めることで、万が一のトラブル発生時にもスムーズに対応できます。
著作権は基本的に制作会社のものになると思いますが、『制作費が全て支払われてから権利を移転する』など、権利が移転するタイミングなどもポイントとなります。
また著作権とは少し違いますが、Web制作の場合は制作者が『制作実績としてポートフォリオなどに掲載したい』という場合があると思います。ただし制作会社によっては実績としての掲載はNGの場合も多いので、この辺も確認しておくといいでしょう。
成果物の品質
満たすべき品質基準
- 良い例
・ページ表示速度: 3秒以内(Google PageSpeed Insights基準)
・セキュリティ対策: WAF導入、SSL証明書設定
・アクセシビリティ: JIS X 8341-3:2016 Level AA準拠 - 悪い例: 「一般的な品質基準を満たす」
- 解説: 具体的な数値や基準を明記することで、品質に関する認識のズレを防ぎます。Webサイトの目的やターゲットユーザーに応じて、適切な基準を設定します。
ブラウザ対応範囲
- 良い例
・PC: Chrome、Firefox、Safari、Edgeの最新バージョンおよび1つ前のバージョン
・スマートフォン: iOS Safari(最新バージョンおよび1つ前のバージョン)、Android Chrome(最新バージョンおよび1つ前のバージョン) - 悪い例: 「主要なブラウザに対応」
- 解説: 具体的なブラウザの種類とバージョンを明記します。最新の統計データなどを参考に、適切な範囲を設定します。
補足します。ブラウザ対応範囲はWeb制作特有の項目になると思いますが、ホームページというのは様々なブラウザで見られます。しかし、正常に見れるブラウザでも別のブラウザで見ると崩れていたりする場合があります。
あとは、スマホなど実機での確認も必要です。
- iPhone
- Android
- iPad
など。
検証ツールや仮想環境での確認では正確に検証できないので、作業者はこれらの実機を持っていた方がいいでしょう。
その辺については以下の記事を参照下さい。
Web制作・コーディング案件の納品前にやるべき端末やブラウザチェックのやり方を解説
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検収
検収方法と期間
- 良い例
・検収方法: 発注者がテスト環境にてWebサイトを確認し、検収シートに記載された項目に基づいて評価を行う。
・検収期間: 納品後7日以内
・検収完了基準: 検収シートの全項目が「合格」と評価された場合
・検収期間内に指摘事項がなかった場合は、検収完了とみなす。 - 悪い例: 「発注者が納得するまで修正対応を行う」
- 解説: 検収方法、期間、完了基準を明確に定めることで、ダラダラと続く修正対応を防ぎます。検収シートを作成し、具体的な評価項目をリスト化することも有効です。
修正対応
- 良い例
・検収時に指摘された不具合については、軽微なものは無償で修正し、重大なものは協議の上対応する。
・修正期間: 指摘事項受領後○日以内
・再検収: 修正完了後、再度検収を行う。再検収の期間と基準も明確にする。 - 悪い例: 「指摘事項があれば修正する」
- 解説: 修正対応範囲や期間を明確にすることで、無制限の修正要求を防ぎます。「軽微な不具合」と「重大な不具合」の定義も明確にしておくと、後のトラブル防止に繋がります。
瑕疵担保責任
瑕疵の定義と期間
- 良い例
・瑕疵とは、Webサイトの機能上の欠陥、エラー、不具合、または契約書に記載された仕様との不一致を指す。
・瑕疵担保期間: 納品・検収完了後3ヶ月 - 悪い例: 「瑕疵があった場合は責任を持って対応する」
- 解説: 「瑕疵」の定義を明確にし、期間も具体的に定めます。期間は、Webサイトの種類や規模に応じて調整します。
瑕疵発生時の対応
- 良い例
・瑕疵担保期間内に瑕疵が発見された場合、受注者は無償で速やかに修正対応を行う。
・瑕疵が重大で修正が困難な場合は、発注者と協議の上、減額、損害賠償、または契約解除などの対応を行う。 - 悪い例: 「瑕疵の程度に応じて適切に対応する」
- 解説: 瑕疵発生時の対応を具体的に定め、双方の責任範囲を明確にします。重大な瑕疵への対応も想定しておくことが重要です。
秘密保持
秘密情報の範囲
- 良い例
・秘密情報とは、発注者から開示された、または業務遂行上知り得た、「営業秘密、技術情報、顧客情報、経営情報、その他発注者が秘密として指定した情報」などを指す。
・公開情報、既に受注者が知っていた情報、第三者から正当な手段で入手した情報は、秘密情報に含まれない。 - 悪い例: 「業務上知り得た情報は秘密にする」
- 解説: 秘密情報の範囲を具体的に定義し、解釈の相違を防ぎます。秘密情報に該当しないケースも明記することで、受注者の不必要な負担を軽減します。
秘密保持義務違反時のペナルティ
- 良い例
・受注者が秘密保持義務に違反した場合、発注者は受注者に対して、100万円の違約金を請求することができる。
・さらに、発注者が被った損害が違約金を上回る場合は、超過分についても請求することができる。 - 悪い例: 「秘密保持義務違反があった場合は厳重に対処する」
- 解説: 具体的なペナルティを設定することで、秘密保持義務の重要性を強調します。損害賠償請求の可能性も明記することで、抑止効果を高めます。
契約解除
解除事由
- 良い例
◯以下のいずれかに該当した場合、発注者または受注者は、相手方に対して書面により通知することで、本契約を解除することができる。
・相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、書面による通知後○日以内に是正されない場合
・相手方が破産、民事再生、会社更生などの手続きを開始した場合
・その他、相手方が本契約を履行する能力を喪失したと合理的に判断できる場合 - 悪い例: 「正当な理由があれば契約を解除できる」
- 解説: 契約解除の条件を具体的に列挙し、曖昧な表現は避けます。
解除手続き
- 良い例
・契約解除の通知は、書面(内容証明郵便など)で行う。
・契約解除の効力発生時期は、通知到達日の翌日とする。
・契約解除時点で未払い報酬がある場合は、速やかに精算する。 - 悪い例: 「契約解除については別途協議する」
- 解説: 解除手続きを明確に定めることで、解除に伴う混乱を最小限に抑えます。
協議事項
協議による解決
- 良い例: 「本契約に定めのない事項、または本契約の解釈について疑義が生じた場合は、発注者と受注者は誠意を持って協議し、解決を図るものとする。」
- 悪い例: 「問題があれば話し合いで解決する」
- 解説: 協議による解決を明記することで、紛争発生時の対応方針を明確にします。
裁判管轄
- 良い例: 「協議により解決できない紛争が生じた場合は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」
- 悪い例: 「裁判になった場合は裁判所の判断に従う」
- 解説: どこの裁判所で訴訟を提起するかを事前に定めておくことで、紛争解決手続きを効率化します。
再委託
再委託の可否と条件
- 良い例
◯再委託は原則禁止。ただし、以下の条件を満たす場合は、書面による事前の承諾を得た上で許可する。
・再委託先が機密保持契約を締結していること。
・再委託先の技術力・実績が十分であること。
・再委託する業務範囲が明確に定められていること。
・受注者が再委託先に対する監督責任を負うこと。 - 悪い例:「再委託は自由に行える」
- 解説: 再委託を無制限に許可すると、品質管理や情報漏洩のリスクが高まります。再委託を許可する場合は、条件を明確に定め、書面での承諾を必須とすることで、トラブルを未然に防ぎます。
再委託先の管理
- 良い例
・再委託先との契約内容を書面で明確にする。
・定期的に再委託先の進捗状況や品質を確認する。
・問題が発生した場合は、速やかに対応し、必要に応じて再委託契約を解除する。 - 悪い例:「再委託先については受注者に一任する」
- 解説: 再委託先に対する管理責任は、最終的に受注者が負います。再委託先との契約内容や進捗管理を怠ると、品質低下や納期遅延に繋がりかねません。定期的な確認と適切な対応を行うことで、リスクを最小限に抑えることができます。
これは受注者が自分で作業をやらずに、別の人にさらに委託することです。クラウドソーシングなどでよくありますが、クラウドソーシングで受注してそれをクラウドソーシングで発注し、マージンを頂くという感じです(禁止されていると思いますが)
Web制作では受注者が営業マンやディレクターの場合、制作は別の人に依頼すると思います。そこで再委託についてしっかり明記しておかないと『再委託するとは聞いていません』というトラブルになりかねません。
もちろん、再委託が悪いという訳ではありません。再委託する場合には『事前に許可を取っておく』ということが大事です。
損害賠償
損害賠償の範囲と金額
- 良い例
・損害賠償の範囲: 受注者の責めに帰すべき事由により、発注者に発生した直接かつ通常の損害に限る。
◯損害賠償の金額: 損害賠償の金額は、発注者が実際に被った損害額を上限とする。ただし、以下の場合は、上限を超える損害賠償を請求できる。
・受注者が故意または重大な過失により損害を与えた場合
・別途合意した特定の損害(逸失利益など)が発生した場合 - 悪い例:「損害賠償の範囲と金額は、協議の上決定する」
- 解説: 損害賠償の範囲と金額を明確に定めておくことで、トラブル発生時の対応がスムーズになります。特に、上限金額を設定することで、受注者のリスクを限定し、安心して業務に取り組めるようにします。
これはどのような場合が損害賠償の対象となるのか、そして損害賠償の金額の上限などを明確にしておきましょう。
例えば以下のような内容になります。
- 制作物は集客の効果は保証しません
- 損害賠償額の上限は制作費以内とする
- 納期を過ぎてから納品された場合は制作費のお支払いはしません
- 納品してから○ヶ月以降は損害賠償請求は不可
私の周りでも実際に損害賠償請求をされたという人はいませんが、『損害賠償請求されそうになった』『一方的に契約解除されて制作費も支払われなかった』という人はいます。
この辺は契約書で明記していても不安はあると思うので、そういう場合は保険に加入することをおすすめします。
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免責事項
- 良い例
・不可抗力: 天災地変、戦争、暴動、その他当事者の支配が及ばない事由による損害については、免責とする。
・第三者の行為: 受注者の責めに帰すべき事由によらない第三者の行為による損害については、免責とする。 - 悪い例:「受注者は、一切の損害賠償責任を負わない」
- 解説: 免責事項を明確に定めておくことで、予期せぬ事態が発生した場合の責任の所在を明確にします。ただし、免責事項を過度に広げると、発注者の保護が不十分になる可能性があるので注意が必要です。
Web制作の業務委託契約書作成時の注意点
Web制作の業務委託契約書は、プロジェクトの成功と双方の権利保護のために非常に重要です。しかし、作成時には注意すべき点がいくつかあります。ここでは、それらの注意点を詳しく解説していきます。
明確かつ具体的な記述を心がける
- 曖昧な表現を避ける: 「可能な限り」「速やかに」などの曖昧な表現は避け、具体的な数値や期限を明記します。例:「納品は契約締結日から30日以内とする」「修正対応は3営業日以内に行う」など。
- 専門用語を控える: クライアントが理解できない専門用語は避け、分かりやすい言葉で記載します。技術的な内容は別紙にまとめ、補足説明を加えるのも有効です。
- 作業範囲を詳細に定義する: Webサイトのデザイン、コーディング、コンテンツ作成など、どこまでが委託業務の範囲なのかを明確に定義します。後々の追加請求や認識のズレを防ぐために重要です。
- 納品物と検収基準を明確にする: 納品物の形式(HTMLファイル、画像データなど)や検収基準(動作確認環境、ブラウザチェックなど)を具体的に記載します。
権利関係を明確にする
- 著作権の帰属: Webサイトの著作権、デザイン、ソースコードなどの知的財産権が誰に帰属するのかを明確に定めます。通常は、クライアントに帰属させるケースが多いですが、個別に協議することも可能です。
- 知的財産権の利用許諾: 制作者が制作物をポートフォリオなどで利用する場合、その範囲や条件を明記します。
- 秘密保持義務: クライアントから提供された情報や、制作過程で知り得た情報を第三者に開示しないことを約束する条項を設けます。
支払い条件を明確にする
- 報酬額と支払い時期: 報酬の総額、内訳、支払い方法、支払い時期を明確に記載します。分割払い、 前金など、支払い方法についても詳細に定めます。
- 追加費用と変更対応: デザイン変更、機能追加など、当初の契約範囲を超える作業が発生した場合の費用負担や対応方法を定めます。
- 遅延損害金: クライアントが支払いを遅延した場合の遅延損害金に関する条項を設けることで、支払いの確実性を高めます。
トラブル発生時の対応を定める
- 瑕疵担保責任: 納品したWebサイトに不具合があった場合の対応、修正期間、責任範囲などを定めます。
- 契約解除: 契約解除の条件、解除に伴う違約金、返金などを定めます。
- 紛争解決: 訴訟、調停、仲裁など、万が一紛争が発生した場合の解決方法を定めます。
その他の注意点
- 契約書雛形を安易に利用しない: Web上には多くの契約書雛形が存在しますが、安易に利用せず、プロジェクトの内容に合わせてカスタマイズすることが重要です。
- 専門家に相談する: 契約内容に不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談することを強くお勧めします。専門家のアドバイスを受けることで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。
- 双方の合意を重視する: 契約書は、クライアントと制作者の双方が納得した上で締結することが重要です。一方的な押し付けにならないよう、十分な協議を行いましょう。
業務委託契約書の雛形(テンプレート)について
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Web制作者がよく利用するクラウドワークスやランサーズの覚書や、私のように海外在住者向けの業務委託契約書など、11種類もの雛形があります。
1年以上前に発売されましたが、定期的に更新されています。
特にWeb制作を始めたばかりの頃は、トラブルやモンスタークライアントに遭遇する恐怖があると思うので、自分の身を守るためにも手元に置いておきたいですね。
これに加えて先ほどもご紹介したフリーナンスに加入すれば、フリーランスとしての活動は安心して出来るかと思います。
フリーナンスの評判や無料保険の理由を解説【招待コードあり】
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まとめ
Web制作における業務委託契約書は、トラブルを未然に防ぎ、円滑な業務遂行をサポートするための重要なツールです。契約内容を明確に定めることで、双方が安心してプロジェクトを進めることができます。契約書の作成には、専門用語を避け、曖昧な表現を避けるなど、いくつかのポイントを押さえる必要があります。必要に応じて、テンプレートを活用したり、専門家に相談することも検討しましょう。
Web制作のプロジェクトを成功させるためにも、業務委託契約書の作成には十分な時間と注意を払いましょう。